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傑作とは言えないけど
宮部みゆきといえば、ストーリーテリングの巧みさで定評のあるミステリ作家です。

その作品としてはちょっと、ツメが甘いんじゃないかなという感じもあるのですが、一方、宮部作品全体の中ではおもしろい位置を占めている作品かも。

『誰か』

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以下は感想です。
もとの単行本は2003年の発売だから、けっこう遅い文庫化である(2005年にノベルスが出ているが)。

主人公はある財閥グループの広報部に勤めるサラリーマン。グループの会長の娘と結婚している、いわゆる「逆玉」の立場にある。ただしこの娘は正妻の子ではなく、かつ本人は心臓が弱くてバリバリ活動したりできない、という設定。つまり財閥の中枢をうかがう立場ではない。おまけに広報部といっても対外的な広報宣伝を行なう部署ではなく(それは別にある)、グループの社内報を制作するという、何だか小規模出版社みたいな仕事である。

そういうソフトな職種の主人公が、会長付き運転手・梶田の事故死を巡って、探偵役をつとめることになる。とはいえそれは、父の人生をつづった本を出したい、という、遺族(二人の娘)の願いに即したもので、言わば取材に近く、その意味では彼の本業からかけ離れたものではない。

この後ネタバレあります!

その取材の過程で、平凡に見えた梶田の、隠された過去が浮かび上がってくる。そもそも、仕事上も個人的にも縁のないはずの事故現場に、彼がいたのは何故なのか?事故そのものが、仕組まれたものだったのか?過去の秘密と、それは関係しているのか?

大きな財閥の企業グループ、という舞台装置があるにもかかわらず、物語は常に個人的、私的な領域で推移する。会長の個人的な運転手、私的な「婿」である主人公、運転手の死んだ妻と二人の娘の、私的な歴史。「財閥」や「会長」の存在は、主人公がサラリーマンであるにもかかわらず自由に動ける状況設定と、その性格の陰影づけのために存在しているようにさえ思える。このあたりは、ストーリーテリングの上手い宮部にしてはツメが甘いように感じる。

最初の依頼そのものが、事故(自転車との接触事故である)の加害者が逮捕されないことに業を煮やした妹娘の、個人的な感情に端を発している。これに対し、両親の過去をほじくり返すことに消極的な姉は、必ずしも賛成していない。にもかかわらず妹が主張するのは「正義」である。

最終的に、梶田の死そのものは純然たる事故であることが明らかになり、加害者は自ら警察に出頭する。同時に梶田の過去の秘密の全貌も、それが姉妹にどういう影を落としてきたのかも、妹の行動の裏にあった極めてエゴイスティックな動機も、明らかにされる。そして余計な真実を明るみに出したことで、主人公はほとんどの登場人物に(自らの妻と娘、そして舅である会長を除いて)非難されることになる。

後味のよくない物語であることは確かである。ただ、宮部の作品の中には、同様の苦さを残すものも、これまでに少なくなかった(「スナーク狩り」とか「R.P.G」とか)ことを考えれば、こうした作品傾向の一群、というジャンルが宮部作品には存在するんだ(決して人間の善意とか健気な子どもとかの世界ばっかりじゃないんだ)、ということになるだろう。「善」と「悪」、「加害」と「被害」が、テレビのワイドショーのいうような単純に分別できるものではないこと、そのことに立ち戻った作品でもあるといえよう。
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