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山姥たちの系譜
上橋菜穂子つながり、かつ「境界」つながりで、もう1冊。
「狐笛のかなた」

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以下は感想です。
「守り人」シリーズではない(それより以前の)上橋菜穂子作品。主人公の小夜は、父を知らず、幼くして母を失い、産婆をなりわいとする祖母に育てられた。ある夜、犬に追われた子狐を助けた小夜は、森の中の屋敷に隠れ住む少年・小春丸にかくまわれ、彼と親しくなっていく。しかし、小春丸の境遇は、屋敷の外へ出ることも、まして土地の者との交流も許すものではなく、二人は引き裂かれてしまう。

そして数年、祖母を亡くし、小春丸との思い出も遠い夢のように思われるようになったころ、不思議な運命が小夜をふたたび小春丸のそばへと引き寄せることになる・・・


土地と水をめぐる隣国との争い。それぞれの領主に仕えその争いに力を貸す術者たち。術者の呪に縛られて死ぬまで使い魔として使われる、<あわい>(人の世とカミの世の間の世界)の生き物<霊狐>たち。人の世の真ん中と辺縁とさらにその外側とで重層的に展開される物語に、ひきこまれる。

祖母から習った産婆の術と、母からうけついだ不思議な能力をもつ小夜。使い魔として使役されながらそのことに違和を持ち続ける霊狐、野火。身を守るために父から引き離されて育ち、それゆえに父を求める小春丸。それぞれにちがう立場で、それぞれに孤独なかれらの結んだ絆が、この物語の中心軸を成している。

終章、報復に報復を重ねる争いが放棄され、あわいに去った小夜と野火が元服した小春丸と春の野で再会するシーンは、もの悲しくも美しい。

呪に縛られ使役されつつも自らの<意志>をどこかに保ち続ける(それゆえに主に歯向かうこともする)<霊狐>たちの設定も秀逸だが、村はずれにひとり住み産婆を営むという、小夜と祖母の設定もまた秀逸である。産婆は出産をとりあつかう技術者であり、<生>をつかさどるものであるが、同時に、<あの世>から<この世>への入口=境界を取り扱うものであり、時には<死>(赤ん坊の、あるいは母親の)をもつかさどるものである。それゆえに、尊敬される存在であると同時に忌まれる存在でもある。そういうものとして、小夜と祖母は、共同体とつながりながらも、共同体の「内」の者ではないのだ。それは、「守り人」シリーズの、タンダやトロガイにも通じるありかたである。

そして、「共同体の外縁にいる」「異能のもの」「畏れと怖れを抱かせるもの」といえば、「妖怪」を思い起こすし、異能の女(とくに年老いた)で妖怪めいた、といえば「山姥」につながるだろう。かつて、ベストセラーとなった「オニババ化する女たち」において、著者の三砂ちずるは、「鬼婆」「山姥」を「子どもを生まないまま更年期を過ぎた女性」に比定したが、それよりも、産婆や治療者としての女、共同体の外部にあって特殊な技術=異能を持ち尊敬と忌避を同時に受けていた女たち、とするほうが、ずっと説得力があるように思う。トロガイなんて風貌からして山姥的だし。
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