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母乳とミルク
以前にもこのようなテーマで書いたことはあると思うのですが、最近ツイッターで産科や小児科のドクターとの交流が増え、そのなかであらためてうーんと思ったので、再度書いてみます。

母乳が赤ちゃんにとってたいへん優れた食物であること、それを否定する医師はいません。粉ミルクは様々な改良が加えられているとはいえ、母乳の持つ免疫能を肩代わりすることはできません。調乳の手間もかかり、衛生にも気を使わねばなりません。また、今一般に思われている以上に多くのお母さんは、おそらく母乳だけで離乳完了までいけるはずで、「足りないかも」という不安から、ほんとうは必要ないのにミルクを足している人は少なくない、というのも事実だと思います。

けれども一方で、やはり母乳だけでは足りない、という場合はある。そこを見誤ると、赤ちゃんの健康に直接に被害が及びます。
たとえば、母乳には、出血時に速やかに血液がかたまって出血をとめるために必要なビタミンKが、必ずしも十分な量含まれていないこと、また、鉄分やビタミンDも、乳児期後期には母乳だけでは足りないことが知られています。これらは、薬や食物から補う必要があります。ビタミンKは、今、赤ちゃんが生まれた直後と5?7日後、生後1ヶ月に与えることが標準になっています(ホメオパシーを信奉する助産師がこれを怠り、代わりに何の薬効もない「レメディー」(砂糖玉)を与えた結果、赤ちゃんが脳出血を起こして亡くなった事件が、最近問題になりました)。生後5?6ヶ月ころから始める離乳食も、母乳だけでは不足しがちな栄養素を補う意味があります。

こうした栄養素の問題だけでなく、そもそも母乳の量が足りない、という場合もあります。ツイッターで、「あれっ」と思ったのは、「母乳がなかなか出なくても、赤ちゃんは最初の1週間はほとんど何も飲めなくても生きていける」というツイート、それに対して「その考え方は危険、実際脱水で何人も入院している」というツイート、どちらも小児科医のものでした。

確かに、母乳の分泌は出産後すぐにどんどんよくなるとは限りません。最初の数日は、赤ちゃんが外に出すもの(うんちやおしっこ)の方が、飲んだおっぱいの総量よりも多いのがふつうで、この間は体重が減ります。これは「生理的体重減少」と呼ばれる有名な現象です。そして、母乳の分泌が増えてくると、ようやく赤ちゃんの体重は増えてきます。私が以前勤務していた病院では、年間1000人くらいの赤ちゃんを見ていましたが(追記・「赤ちゃんに優しい病院」認定こそ受けていませんでしたが母乳推進を掲げ、医学的理由以外でミルクを足すことはなく、結果としてほとんどの人が退院時は母乳のみでした)、早い人で生後3日、多くの人で4?5日、遅い人でも7日目くらいからは、増加に転じていました。これからみても、「1週間」というのはほんとにぎりぎりなので、最初のツイートに関しては、ちょっとそれは行き過ぎなのではという感じを、私も受けました。

いつから体重が増えてくるか、だけでなく、どこまで体重が落ち込むか、という問題もあります。生理的体重減少は、だいたい生まれたときの体重の7?8%のことが多く、10%をこえるとちょっと心配、15%も20%もというのは論外、というのが小児科医の一般的な考えだと思います。ただしこれは赤ちゃんの体重によってもだいぶん話が違います。2500g前後で生まれた赤ちゃんと4000gで生まれた赤ちゃんを一緒くたに議論するわけにはいきませんし、実際の赤ちゃんの活気があるか、哺乳の意欲があるか、なども考慮せねばなりません。

こうしたことを無視して、ただただ「母乳で頑張る」ことだけにこだわっていると、脱水、低血糖、強い黄疸などで入院を余儀なくされる赤ちゃんが、実際にいるのです。そこまでいかなくても、2ヶ月3ヶ月になっても体重がなかなか増えず、見るからにやせている赤ちゃんを見ることがあります。母乳がどれくらい出ているのか、また赤ちゃんがどれくらい飲めているのかを、正確に測ることは難しいのですが、少なくとも、生理的体重減少の期間を過ぎれば赤ちゃんの体重はどんどん増える(3ヶ月ころまでは1週間に約180?200g以上)もので、これが横ばいとか、減るとかいうのは、飲んでいる量が足りない証拠です。

出産直後に、なかなかおっぱいが出ている実感がなくても、落胆したりあきらめたりする必要は、もちろんありません。母乳の分泌が安定し、赤ちゃんが上手に飲めるようになるまでお母さんをサポートする体制も、もっと充実する必要はあります。しかし、あたかも「母乳原理主義」のように、「誰でもどんな場合でも母乳だけで育てられるし、そうすべきだ」というのは、偏った考えであり、事実として誤りです。

実際は、日本のお母さんたちは、母乳だけで育てている人の割合も低くはありませんし、混合栄養も含めれば、諸外国に比べて子どもが大きくなるまで母乳を与え続けています。一時的にミルクを足しているうちに、母乳の分泌が追いついてきて自然にミルクを飲まなくなった、という子も珍しくはありません。

近代以前には、母乳が足りなければもらい乳をするか、山羊など他の動物の乳や、重湯など、人間の赤ちゃんの栄養としては不十分なものを与えざるを得ず、その結果生き延びれらない赤ちゃんもたくさんいました。そういう意味では、粉ミルクは、たいへんに優れた代替食品です。必要なとき、たいへんなとき、それを利用することは、当然のことです。


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